連休明けから色々とあってずいぶん間があいてしまいました。
また少し時間が取れるようになってきたので、設計の続きを再開したいと思います。
パワートレインの検討が終わったので構造検討に入ります。
まずは各部に質量を大まかに配分しておきます。
で、飛行速度とその時の荷重倍率を規定したV-n線図を作ります。
このV-n線図の中でかかる入力に対して材料が破壊されず、変形量が許容範囲内に入るように構造を検討していきます。
目次
各部の仮質量配分
全備重量は300g以下を目標としているので、300gを各部へ割り振っていきます。
搭載機器
搭載機器関係は仕様で部品を仮置きしたのでそれに合わせて重さが決まります。
バッテリー質量を見誤ってたので修正
参考質量: Hyperion G6 HV 900mAh 2S LiPo 50g データシート
(2017.8.16追記)
搭載機器 | 質量目標[g] |
---|---|
モーター | 20 |
バッテリー | 50(←25) |
プロペラ | 5 |
アンプ | 15 |
受信機 | 10 |
サーボ(6gクラスを4個) | 24 |
小計 | 124(←100) |
機体
機体は残りの200gを割り振ります。
主翼とそれ以外でまず半分ずつの100gを割り振りました。(主翼にかけすぎ?)
尾翼は主翼との面積比で配分を計算。各翼の面積は以下。
主翼:153000mm2
水平尾翼: 25853mm2
垂直尾翼: 8324mm2
なので、主翼の約20%で20g (水平尾翼 15g、垂直尾翼 5g)を割り当てる。
胴体は残りの80gをランディングギアなどに20g割り振って、本体は60gとする。
以上まとめると以下のようになります。
※バッテリー質量変更(50g←25g)のあおりを受けて、主翼質量の質量配分を76g(←100g)に見直しました。構造検討の結果では約96gだったので20gの軽量化を図ります。
(2017.8.16追記)
機体部位 | 質量目標[g] |
---|---|
主翼 | 76←100 |
胴体 | 60 |
ランディングギア | 20 |
水平尾翼 | 15 |
垂直尾翼 | 5 |
搭載機器 | 124(←100) |
合計 | 300 |
荷重倍率とV-n線図
最近日本でも行われるレッドブルエアレースなんかだと最大で10Gとか言っているのが荷重倍率です。重力の何倍かかりますか?というものです。ちなみにレッドブルエアレースでは荷重が10Gを超えるとその回は失格になります。
もし荷重倍率を10とすると、機体の重量300gの10倍なので3kgで下に引っ張られても耐えられる主翼構造にする必要があります。ということで、この荷重倍率を決めます。
実機の場合
参考に実機の場合だと耐空類別ごとに制限運動荷重倍率として規定があります。
例えば曲技Aでは正方向が6倍、負が-0.5倍以上である必要があります。
設計としては旅客機や輸送機だと4~5倍、戦闘機だと20倍前後の荷重倍率で設計するといわれています。
最高飛行速度での最大揚力時の荷重
まず考えられる最大荷重は、最高速度が出ているときに揚力最大で上昇しようとしたときです。
最高速度を12m/sと置いたので、この時の最大揚力を計算してみます。
$$ L=\frac{1}{2}\rho S C_L V^2 $$
S: 主翼面積 0.153 [m^2]
CL: 最大揚力係数 1.38 (クラークYの場合)
V: 最大速度 12 [m/s]
ρ: 空気密度 1.225 [kg/m^3](標準大気標高0m)
計算すると揚力L=18.6[N]
荷重倍率nは
$$ n=\frac{L}{W g} $$
W: 機体重量 0.3[kg]
g: 重力加速度9.8[m/s^2]
計算するとn=6.3になります。意外と少ない。
元々の目標としていた最高速度14.4m/sで再度計算してみるとn=9.1になります。
人が乗らないラジコン飛行機は荒い操縦で荷重倍率が高くなりがちなのと、抗力の見積もりが甘く、モーターの選定しだいでは最高速が当初の予定通りに出る可能性もあるのでこの荷重倍率9倍を目指すことにします。
急降下含めた最高速度
飛行速度が14.4m/s以上の場合は荷重倍率9倍で見ることにしますが、V-n線図を描くため急降下も含めた最高速度がどれぐらい出るか確認しておきます。
急降下時の条件としては、最大飛行速度時の推力と重力加速度が空気抵抗と釣り合う速度ということにします。
まずは最大飛行時の推力Fを求めます。
$$ F=\frac{1}{2} \rho C_D S V^2 $$
ρ: 空気密度 1.225
CD: 抗力係数 0.061
S: 主翼面積 0.153
V: 最大飛行速度 14.4
計算するとF=1.185[N]です。急降下時の力のつり合いを考えると
$$ \frac{1}{2} \rho C_D S V_{D}^2 = W g + F $$
VD: 急降下速度[m/s]
W: 機体重量 0.3[kg]
g: 重力加速度 9.8[m/s^2]
F: 最大推力 1.185[N]
上記からVDを計算すると26.9[m/s](=96.7km/h)です。
本当はマイナス方向も規定してあげないといけないのですが、以下の理由から省略します。
- 練習機の為、積極的にマイナスGをかけるような飛行はしない。
- 主翼の荷重を受ける構造は限界設計をせず、上下対称とする。
V-n線図
決めた数字でV-n線図を書きます。横軸に速度、縦軸に荷重倍率を取ったグラフになります。速度前提は以下です。
VS: 失速速度 4.8[m/s]
VA: 設計運動速度 14.4[m/s]
VD: 設計急降下速度 26.9[m/s]
速度0~VAまでは揚力最大となる荷重倍率が最大荷重倍率になるので、以下揚力の式のグラフになります。
$$ L=\frac{1}{2}\rho C_L S V^2 $$
VA~VDまでは最大荷重倍率の9で固定です。
これらの条件をグラフにすると以下のようになります。
まとめ
今回は構造検討に向けて仮質量配分と最大荷重倍率を決めてV-n線図を描きました。
次回は今回作ったV-n線図を元に主翼にかかる荷重を求めて主翼の構造検討に入りたいと思います。
コメント
貴重な記事をどうもありがとうございます。
一点お伺いしたい点がございましたので、コメントにて失礼します。
「VA-VDまでは最大荷重倍率の9で固定です。」という個所についてなのですが、速度がVAからVDに大きくなっていくにつれて揚力も増し、最大荷重倍率が増加していくということは起きないのでしょうか。
サクライさん、コメントいただきありがとうございます。
ここで設定している最大荷重倍率は「設計上想定する」最大の値になります。
このため操作法によっては実際の荷重倍率が最大荷重倍率を超えることはあります。
仰っている状況は例えば「全開で急降下して速度がV Aを超えた状態で急激に引き起こす」などが考えられますが、今回の設計例は入門機という扱いなのでそういう操作は設計的に許容していないという事になります。
もし、サクライさんがアクロ機などを設計されるのであれば、機動に合った最大荷重倍率を想定する必要があります。一方で最大荷重を上げると強度と剛性の向上が必要となる為、機体は重くなり翼面荷重が増えるので機速が速くなり入門機には向かなくなります。
その辺りを機体の特性を考えながらバランスさせるのが設計の面白い点だと思います。
蛇足ですが、大戦中の急降下爆撃機が引き込み脚を使っていないのは、急降下中の抵抗を増やして速度が上がり過ぎないようにするのと安定性の向上が目的だそうです。面白いですよね。