今回は主翼のねじりを受ける主軸の構造を検討します。
当初は4本フランジを上下・前後4枚のウェブで囲むボックス構造でねじりを受けようとしていました。
この構造で主翼の質量を見積もったところ96gとなる見込みでしたが、バッテリー質量増加で20gの軽量化が必要になったので上下のウェブを廃止して2本フランジ化します。これでちょうど20gとなる見込みです。
上記の前提で主翼のねじりを検討します。
4本フランジの時よりもねじり剛性が犠牲になりますが、当初の計画が強すぎるので変更後も許容範囲内となる予定です。(本当か??)
当初の4本フランジ検討資料をメモ書きですが以下にUPしておきます。興味がある方は参考にどうぞ。
主翼ねじり設計メモ 4本フランジバージョン(wing-torsion-4flg.xlsx)
目次
ねじり入力の確認と構造主軸の決定
桁配置の2戦略
まずは、どういう桁の配置にするかの戦略を考えます。
1つ目は最大翼厚位置付近へ配置する案です。桁の高さを高く取れるのでモーメント、曲げ共に有利になります。一方で迎え角が小さい時には風圧中心からの距離がある為、ねじりモーメントが大きくなり不利になります。
2つ目は風圧によるねじりモーメントが最小となる位置付近へ配置する案です。移動する風圧中心の中心付近に配置することでねじりモーメントが有利になります。一方で最大翼厚位置付近からは離れる為、桁高さが減ってモーメント・曲げを受けるのに不利になります。
主軸位置とねじりモーメントのグラフ作成
主軸の位置をコード長の何%かに置いたとき、ねじりモーメントがいくつになるかを各飛行パターン毎にグラフにします。そのグラフを見ながらどういう桁配置が良いかを考えます。
飛行パターンは以下の4つです。(V-n線図上の点で表してます)
飛行パターン | A(VA 9G) | D(VD 9G) | D0(VD 0G) | A1(VA 1G) |
---|---|---|---|---|
迎え角 α0 | 12.5 | -0.25 | -2.75 | -1.5 |
モーメント係数Cm α.c. | -0.0285 | -0.0961 | -0.0785 | -0.0852 |
揚力係数CL | 1.362 | 0.390 | 0.000 | 0.151 |
風圧中心位置 XCp | 0.2536 | 0.4984 |
主桁の弾性中心をe.c.としたとき、この弾性中心周りのモーメント係数をCm e.c.、翼根のねじりモーメントをQe.c.とすると、
$$ Cm_{e.c.} = Cm_{a.c.}+(x-0.25)C_L \\
Q_{e.c.} = \frac{1}{2}\rho Cm_{e.c.} V^2 \frac{S}{2} C$$
Cm a.c.: 空力中心周りモーメント係数
x: 主桁弾性中心位置[コード長に対する前縁からの距離 %]
CL: 揚力係数
ρ: 空気密度 1.225[kg/m^3]
V: 対気速度(=飛行速度) [m/s]
S: 翼面積 (2で割ってるのは片翼分にしてる) 0.153[m^2]
C: 平均コード長 0.153[m]
弾性中心位置を横軸、上記の弾性中心回りモーメントQe.c.を縦軸に各飛行状態のグラフを書くと以下のようになります。
グラフの鎖線はそのコード位置の翼厚をプロットしてます。25%~30%の位置で最大翼厚になっていることが分かります。
また風圧中心をパターンAの時(25.3%位置)とDの時(49.8%位置)について載せています。
弾性中心位置の決定
グラフがかけたのでこれを見ながら主軸位置を決めます。
①の最大翼厚付近に置く案だと28%ぐらいの位置に弾性中心をおくことになります。
この位置だとちょうど飛行状態にかかわらず常にQe.c.が負の値を取る限界位置が27%付近にあり、今回はここを弾性中心としておくことにします。(常に負の値を取るようにするのは正負が逆転する際にヒステリシスが発生するのを嫌ったためです。背面飛行をする場合はあんま意味のない決め方です。)
もし②の案を選ぶとするなら30%付近に弾性中心をおきます。Qe.c.の絶対値が最小となる位置です。マイナス側にD0がいるのでそんなには減りませんので、今回は①の案を採用しました。
今回の主桁は前後および上下で対称な構造としているので、主桁の図心=弾性中心になります。
ねじり強度・剛性の確認とボックス構造の決定
ウェブ材料の選定
ウェブ材としてバルサ材、樹脂材料(アクリル、塩ビ、PP)、航空ベニヤを候補に検討しました。
バルサ材はせん断強度が低いので採用するには板厚が大きくなってしまいウェブ材としては不適格。
強度で見ると樹脂材料もいいのではと思いましたが、剛性率(単位剪断入力当たりの変形量)が大きいのでねじれ角が大きくなってしまうためよろしくないです。軽量化できるかもと期待しましたが残念。
ということで、素直に航空ベニヤの板厚1mmを第一候補とします。0.5mmもありかな~と思ってましたが、今回ボックスを縮小するのでたぶん剛性が不足するのと、市場に出回っている0.5mmの航空ベニヤは1枚ものでシワが多いのと木目方向によっては裂けやすいとのことなので、1mmでいきます。
最低ボックス幅の計算
まずは強度からの最低ボックス幅を確認します。なお、前回の記事では曲げ強度・剛性からフランジ幅を6mmとしました。
翼にかかるねじりモーメントQ、ボックス断面積A、ウェブ材の受けられる限界せん断流をqTallowとすると、 3)
$$ Q<2 q_{Tallow}A \\
q_{Tallow} = t \tau_{allow} (t: ウェブ板厚、\tau_{allow}: 剪断許容応力)\\
A=HB (H: ボックス高さ、B: ボックス幅) \\
よって、Q<2t\tau_{allow}BH \\
B>\frac{|Q|}{2t \tau_{allow} H } $$
まずねじりモーメントQの最大値を求めます。
翼端からの距離をy、コード長をCとすると、主翼微小面積ΔS(y)に働く弾性軸周りのねじりモーメントΔQは、
$$ \Delta Q(y)=\frac{1}{2}\rho V^2\Delta S(y)C(y)C_{m e.c.} $$
位置yでのねじりモーメントは翼端から計算位置まで上式を合計すればよい。矩形翼(テーパー比1)なので、ΔS(y)=CΔy, C(y)=C…一定よって、
$$ Q(y)=\frac{1}{2} \rho V^2 C^2 C_{m e.c.} y $$
となる。
Cme.c.が最大となる飛行パターンはD(Cme.c.=-0.07845)で、ねじりモーメントが最も大きくなるのは翼根(y=0.5m)なので、最大ねじりモーメントQmaxは
$$ Qmax = \frac{1}{2} \rho V^2 C^2 C_{m e.c} y \\
=\frac{1}{2} *1.225 * 26.9^2 * 0.153^2 * -0.07845 * 0.5 \\
=-0.458[Nm] $$
航空ベニヤのせん断強度1.2kgf/mm^2(=11.76MPa)、安全率を2、板厚t=1mm(=0.001m)、ボックス高さH=15mm(=0.015m)とすると、
$$ B_{min}>\frac{|Q_{max}|}{2t \tau_{allow} H } \\
>\frac{0.458}{2*0.001*(11.76*10^6/2)*0.015} \\
>0.00260 [m] $$
上下のフランジに使うヒノキ材はせん断強度5.82~3.77MPa 5)と航空ベニヤの強度の3分の1程度ですが、フランジ厚3mmと3倍の板厚を取っているので等価と見なします。
つまり、Bの最小値は2.6mm以上であればよいことになるので、現状の幅6mmで強度上は問題なしと言えます。
ねじれ角の確認 3)
単位長さLあたりのねじれ角Δθは以下
$$ \Delta \theta = \frac{L}{2A} \sum \frac{q_T l}{G t} \\
= \frac{L}{2A}\{ \frac{(q_T-q_F) H}{G_1 t_1} + \frac{(q_T+q_F) H}{G_1 t_1} + \frac{q_T 2B}{G_2 t_2} \} $$
Δθ: 単位長さL当たりのねじれ角[rad]
qT: ねじりモーメントによるせん断流
qF: 曲げによるせん断流
A: 包囲面積(=BH)
H: ボックス高さ (15mm)
B: ボックス幅 (6mm)
t1: 前後ウェブ板厚 (1mm)
t2: 上下フランジ板厚 (3mm)
G1: 前後ウェブ剛性率(300kgf/mm^2) 3)
G2: 上下フランジ剛性率(1.0~1.5×10^9 dyne/cm^2) 6)
飛行パターン | A | D | D0 |
---|---|---|---|
速度 | 14.4 | 26.9 | 26.9 |
WN | 26.04 | 26.45 | 0.00 |
WT | 5.64 | 1.70 | 1.36 |
Cm e.c. | -0.0013 | -0.0883 | -0.0785 |
上記から各飛行パターンごとに翼端のねじり角を求めると、D, D0でそれぞれ-9.4°、-8.4°となり、絶対値で10度近くなってしまい大きすぎるのでさらに対策を考えます。
ねじり剛性が不足するのは主にフランジとして使用しているヒノキ材の剛性率が航空ベニヤに対して低いことが原因です。
こうなると上下面も航空ベニヤで覆いたくなります。フランジ幅を広げると質量が厳しのでフランジ幅と同じ6mm幅の1mm厚のベニヤをフランジの上下面に張ることにします。
上記の条件で質量を見積もりなおすと、両翼で約83gでした。リブで12gほど使っているので軽減孔を空けて3gはカバーすることにします。
以下、ねじり検討と主翼材料検討のエクセルシートをアップしておきますので参考にどうぞ。
【検討ファイル】
主翼ねじり検討(wing-torsion.xlsx)
主翼部品・質量・重心検討(wing-parts.xlsx)
出典
- 牧野光雄 (1989). 航空力学の基礎 産業図書 (Amazon) (楽天)
- 新沢順悦・藤原源吉・川島孝幸 (1989). 航空機の構造力学 産業図書 (Amazon) (楽天)
- (有)オリンポス (2008). グライダーの製作(I) 木製ボックス桁 (有)オリンポス (購入先)
- 和栗雄太郎(2005). 模型飛行機の科学 養賢堂 (Amazon) (楽天)
- 山裾伸浩・岸本勇樹 (2013). 和歌山県産スギ,ヒノキのせん断強度およびめり込み強度 和歌山県農林水産試験研究機関研究報告, 1, 131-142.
※以下URLで公開されている
http://www.pref.wakayama.lg.jp/prefg/070109/bulletin/documents/n1_kenhou_15.pdf - 則元 京・山田 正 (1967). 木材の剛性率および誘電特性におよぼす含水率の影響 京都大學木材研究所報告, 41, 36-46
※以下URLで公開されている
https://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/bitstream/2433/53010/1/KJ00002615736.pdf
コメント
真面目な力学的検討に頭が下がります。
私は特に計算もせずカンだけで機体を作っていますが
ねじれ剛性に関しては表面に貼るであろうフィルムの影響が相当大きいと感じています。
近いサイズの市販キットでも主桁が1本(時にはカーボンパイプ一本)だけでバルサプランク無しの機体を見かけますが、フィルムを貼った後は意外と剛性があるように感じられます。私が持っている翼長1.1mのグライダーは翼厚10%でカーボンパイプ一本とフィルムだけですが強度は有り余っているように感じます。
柏瀬さん
実際に作成されている方の経験からのアドバイスは参考になります。
ありがとうございます。
外皮とリブ配置については力学的な検討をきちんとせずに桁に荷重を持たせるようにして簡略化してます。
外皮やリブ配置の影響を検討する手掛かりは「航空機の構造力学」の中にあるのですが、お恥ずかしながら少しレベルが高くて手が出せずにいます。