ここしばらく実験用のロケットについて考えていて、タイトルのロケットにたどり着いたので紹介したいと思います。
目次
コールドロケットとは?
制御とかの打ち上げ実験をする為に10秒程度の噴射ができて扱いが簡単なロケットが欲しいと思って考えました。
水ロケット(ペットボトルロケット)だとコンマ秒台で噴射が終了してしまうのと、加速度がきつすぎる。モデルロケットも良いけど、改造できない。ハイブリッドは打ち上げのハードルも高くて「扱いが簡単」とはとても言えない。
ということで、液体窒素を沸騰させてその噴射を動力とするロケットを考えてみました。
燃焼を伴わないロケットなのでコールドロケットと命名。
コールドロケットの構成
こんな感じ。汚い絵と字で申し訳ない(汗
結局のところ以下の簡単な構成。
1. 上部の気化室内で液体窒素に熱を加えて気化させる。
2. 気化した液体窒素を下部のラバールノズルで加速して噴射する。
絵の電熱線はシャー芯を利用しようと思ってます。
それぞれの記号はとりあえず無視してください。設計のところで定義しなおすので。
コールドロケットの設計
さっそく設計します。
大まかな設計条件と考え方
- 定常状態で動作しているとする。(初期の遷移状態は考えない。)
- リポで電熱線を熱して液体窒素(LN2)を気化させる際、エネルギーはすべて気化に使われるとする。また気化熱(蒸発熱)は気化室の状態によらず一定。
- 気化室の圧力がノズルスロートのチョーク状態で決まるようにスロートを設計する。(=チョークするようにスロート面積を決める)
- このときの気化室の温度は「蒸気圧=気化室の圧力」の時の液体窒素の沸点と考える。
- 気化室~ノズル出口までのガスの流れは準1次元的とし、ガスの状態変化は断熱変化とする。気化室でのガス流速は0とみなす。
設計・検討の流れ
定義と数式に行く前に全体の設計検討の流れを書いておきます。何をしようとしているのか理解する助けになるはず。
まず、2番目の条件を考える。電源の仕様を決めてやると電圧と流せる最大電流が決まるので、それがLN2の気化に使える最大エネルギーとなる。
気化熱は状態によらず一定で、エネルギーのロスも無い前提なので、毎秒気化するLN2の質量は上記のエネルギーから求まる。そしてこれがガスの質量流量となる。(質量は保存するのでノズル内全域で質量流量は一定)
次に、3番のノズルスロートのチョーク条件を考える。スロートでの流速は音速以下となるので、流速が音速(チョーク状態)の場合を考える。
このチョーク条件と5番の断熱1次流れの条件を連立させる。そうすると、ノズルスロート面積を気化室の圧力、温度、質量流量の関数として表せる。
気化室の圧力がいい感じになるようにノズルスロート面積を決めてやる。蒸気圧曲線の目標圧力にいい感じの値を入れて温度を求める。それを上のノズルスロートの式に代入してやればよい。
ちなみにいい感じの圧力はだいたい1MPa(約10気圧)ぐらいと思ってる。ちゃんとノズルが超音速動作して、ペットボトルで耐えられる圧がこの程度。性能的には圧力を上げる良くなる。ただし3.4MPa以上になるとLN2が超臨界状態になって気化しなくなるので注意。
温度と圧力が決まると密度は状態方程式から求まる。
ここまでくれば気化室を通常のロケットエンジンの燃焼室とおいて、ノズルの式が使える。いぇーい。
ノズルの式で排気速度を求める。ノズル開口比の式からノズル開口面積を求める(スロート面積は既に設定してる)。排気速度と質量流量から推力が求まって性能が分かる。
あとは、質量配分をどうするとか到達高度や速度がどうなるかをロケットの式で計算しながら設計していく。この辺はペットボトルロケットやモデルロケットと同じなので割愛。
さて、それじゃぁ実際に計算してみよう!
定数と変数定義
定数
一般気体定数 \(R’ = 8.314[J/mol K]\)
窒素分子量 \(\overline{M} = 28 [-, g/mol]\)
窒素気化熱 \(5.56[kJ/mol] = 5.56/28 [kJ/g] = 198.571 [J/g]\)
窒素比熱比 \(k = 1.4 \)
窒素気体定数 \(R = R’/\overline{M} = 8.314/28 = 0.2969[J/g K] = 296.9[J/kg K] \)
大気圧 \(P_a = 101.3*10^3[Pa]\)
変数
圧力\(P[Pa]\)、温度\(T[K]\)、密度\(\rho[kg/m^3]\)、流速\(u[m/s]\)
質量流量\(\dot{m}[kg/s]\)
ノズル断面積\(A[m^2]\)
リポ電圧\(I[V]\)、電流\(E[A]\)、電力\(Q[W]\)
推力\(F[N]\)
添え字は気化室を0、スロートをt、ノズル出口をeとします。
質量流量を求める
リポの前提をDINOGY Graphene 2.0 22.2V 5000mAh 70C/140Cとすると、
電圧E=22.2V、流せる最大電流は140CなのでI=5[A]*140=700[A]
電熱線から液体窒素に加わえるエネルギーは
\(Q = EI=22.2*700 = 15540[W]\)
Qを気化熱で割ると毎秒気化するLN2の質量が求まり、これが質量流量に等しいので、
\(\dot{m} = Q/198.571 = 15540/198.571 = 78[g/s] =0.078[kg/s]\)
気化室の圧力と温度の式を求める
気化室の圧力を求める為の条件式。
チョーク条件
スロートでの流速\(u_t\)は音速
$$ u_t = \sqrt{kRT_t} \tag{1}$$
断熱変化条件
ノズル内の状態変化は断熱的に行われる。導出は\(pv^k = const \)と状態方程式から(割愛)。
\(P_t = P_0(\frac{2}{k+1})^{\frac{k}{k-1}} \tag{2} \)
\(\rho_t = \rho_0(\frac{2}{k+1})^{\frac{1}{k-1}} \tag{3} \)
\(T_t = T_0(\frac{2}{k+1}) \tag{4} \)
質量保存
ノズル内での質量流量は常に一定なので、スロートでも一定。
$$ \dot{m} = \rho_t A_t u_t \tag{5}$$
状態方程式
$$ P_0 = \rho_0 R T_0 \tag{6} $$
連立して整理
んでは解きます。
まず、式(5)に式(1)を代入
$$ \dot{m} = \rho_t A_t \sqrt{kRT_t} $$
両辺を2乗してルートを払う
$$ \dot{m}^2 = \rho_t^2 A_t^2 kRT_t $$
式(3)と式(4)を代入して整理
$$ \dot{m}^2 = \rho_0^2 (\frac{2}{k+1})^{\frac{2}{k-1}} A_t^2 kR T_0 (\frac{2}{k+1}) \\
=kRA_t^2 (\frac{2}{k+1})^{\frac{k+1}{k-1}} \rho_0^2 T_0 $$
式(6)を\(\rho_0\)の式に変形して代入して整理
$$ \dot{m}^2 =kRA_t^2 (\frac{2}{k+1})^{\frac{k+1}{k-1}} (\frac{P_0}{RT_0})^2 T_0 =\frac{k}{R}A_t^2 (\frac{2}{k+1})^{\frac{k+1}{k-1}} \frac{P_0^2} {T_0} \tag{7}
$$
ひとまずここで止めて、液体窒素の蒸気圧曲線の式を求めます。
液体窒素の蒸気圧曲線から圧力と温度を求める
グラフから近似曲線を作成します。元のグラフはこちらから引用。
画像からエクセルでグラフにプロットして近似曲線を引いてやる。あんまり次数を増やしても大変なので3次グラフで近似。エクセル様様。
温度の単位がセ氏[℃]なのと蒸気圧が[MPa]なのも注意。
気化室の温度を\(T_0′ [℃]= T_0 – 273[K]\)、蒸気圧\(P_0 [Pa]\)とすると、
$$
P_0 / 10^6 = 3.6218*10^{-5} T_0’^3 + 2.0858*10^{-2} T_0’^2 + 4.0228 T_0′ + 260.0033 \tag{8}
$$
気化室の圧力が10気圧になる温度を求めます。10気圧は約1MPaなので、式(8)に\(P_0=1.0*10^6\)を代入して解く。というかこれならグラフから読めますね。\(T_0′ = -170[℃]\)
なので、\(T_0 = T_0’+273 = 103[K]\)
スロート面積を計算
式(7)に上記のP0, T0を代入してAtを求めます。
まず、式(7)をAtの式に変形
$$
A_t^2 = \frac{RT_0}{k}(\frac{k+1}{2})^{\frac{k+1}{k-1}} \frac{\dot{m}^2}{P_0^2}
$$
両辺をルート
$$
A_t = \sqrt{\frac{RT_0}{k}(\frac{k+1}{2})^{\frac{k+1}{k-1}}} \frac{\dot{m}}{P_0}
$$
それぞれに数値を代入
$$
A_t = \sqrt{\frac{296.9*103}{1.4}(\frac{2.4}{2})^{\frac{2.4}{0.4}}} \frac{0.078}{1.0*10^6} = 1.99204 * 10^{-5}[m^2]
$$
スロート直径\(D_t\)を求めると
$$
D_t = 2\sqrt{\frac{A_t}{\pi}} = 0.00504[m] = 5.0[mm]
$$
これで、気化室圧を10気圧にするスロートサイズが求まりました。これでどんな性能が出るか計算していきます。
性能確認
排気速度\(u_e\)の式は以下。
$$
u_e = \sqrt{\frac{2k}{k-1}RT_0[1-(\frac{P_e}{P_0})^{\frac{k-1}{k}}]}
$$
\(P_e = P_a = 0.1 * 10^6[Pa]\)として、各数値を代入
$$
u_e = \sqrt{\frac{2.8}{0.4}296.9*103 [1-(\frac{1}{10})^{\frac{0.4}{1.4}}]} = 321.233[m/s] \\
$$
推力Fを求めます。
$$
F=u_e \dot{m} = 321.233 * 0.078 = 25.056 [N]
$$
初期加速度a0を0.5Gとすると、初期質量m0は
$$
F-m_0g = m_0*a_0 = m_0*0.5g\\
m_0 = \frac{F}{1.5g} = \frac{25.056}{1.5*9.8} = 1.7[kg]
$$
10秒間噴射するとすると必要な液体窒素の質量は0.078*10 = 0.78 [kg]。想定しているリポの質量が0.76[kg]。 初期質量1.7[kg]からこれらを引くと、構造質量は160[g]。構造質量比が10%切ってる。無理じゃね?
やりなおし
初期加速度を0.3Gまで落として再計算。初期質量1.966[kg]、構造質量0.426[kg]。構造質量比21%。こんぐらいかな。
最終質量は0.426+0.76 = 1.186。この状態での加速度1.16G
色々無視してざっくり0.3G~1.16Gの単純平均0.7Gで10秒間加速するとすると、噴射終了時の到達高度は\(1/2 a t^2 = 0.5*0.7*9.8*10^2 = 343[m] \)
最終速度は\(at = 0.7*9.8*10 = 68.6[m/s] = 247[km/h]\)
適当なのでこんなには性能出ないだろうけど良さそう!
おしまい
ということで、コールドロケットの設計でした。
結構良さげだと思いませんか?
あ、ペイロードのこと考えてなかったw
実際に作っていきたいのでまた報告します。