ラジコン飛行機 練習機の設計 その11 -構造検討2 主翼荷重の検討とフランジサイズ検討-

前回V-n線図で飛行状態を定義したので、各状態での主翼荷重を求めて、桁のフランジサイズを求めます。

主翼構造のコンセプト

高翼タイプの軽飛行機だと主翼途中から胴体へ繋がる支柱で主翼の荷重を分担しています(下図)。メリットとして主翼を軽量・安価にすることができますが、デメリットとして抵抗が増えるので滑空比や最高速などの性能が悪化します。

作成中の練習機もこの柱があるため荷重を分担させることで主翼の軽量化を図れますが、今回は限界設計をしないでも主翼の構造と質量は成り立ちそうなので、以下のように揚力による曲げを受ける片持ちばりとして主翼を考えることにします。

主翼内部構造のコンセプト

主翼の内部構造は4隅にフランジのあるボックス桁構造で入力を受ける構造とします。
下の絵だとボックスと翼型下面が平行になっていませんが、作り勝手を考えて下面と平行に桁を通すことにします。

受ける荷重は、上下曲げN、前後曲げT、軸方向ねじりMの3つです。
今回はこのN、T、Mによる翼各位置での応力を求めて、四隅のフランジ(角材)のサイズを求めます。

主な構造部材はこのボックス桁ですが、翼型を維持するために前縁と後縁には前縁材と後縁材を入れ、翼幅方向にはリブを入れて外板へかかる空力荷重を桁に伝えるようにします。

荷重の検討

荷重を求める飛行状態

前回作ったV-n線図の範囲内で飛行するため、端部となる以下の点についてそれぞれ荷重を求めます。

  • A点:V=VA(14.4m/s), 荷重倍率9倍の点
  • D点:V=VD(26.9m/s), 荷重倍率9倍の点
  • D0点:V=VD(26.9m/s), 荷重倍率0倍の点

各点の運動状態を具体的にイメージすると、A点は設計運動速度から最小回転半径でループしている状態、D点は設計急降下速度から最大荷重倍率で引き起こした状態、D0点は設計急降下速度でのダイブ中です。

空気力を構造の軸方向へ投影

空気力の揚力や抗力は迎え角が付いた翼の上下・前後方向に定義されているため、迎え角が変わると構造の軸方向から向きが変わってしまいます。このままだと煩雑なので、迎え角に対するCL、CDのグラフを常に構造軸方向になるように変換してやります。

力の変換は以下の図を参考にして下さい。この図では揚力LをNとTに分解しています。同じように抗力Dも分解して足してやります。

$$
N=L\cos(\alpha-\Delta\alpha) +D\sin(\alpha-\Delta\alpha) \\
T=-L\cos(\alpha-\Delta\alpha)+D\cos(\alpha-\Delta\alpha)
$$

ここでのαは迎え角ですが、3次元翼では吹きおろしがある為、αは2次元翼の解析で求めた迎え角α0に吹きおろしによるロス分(誘導迎え角αi)を足した値となります。また、コードライン(1点鎖線)に対して構造軸を下面の平面部と平行に置くため、その分の角度Δα=2.1°を引いて補正しています。

構造軸の上下方向の係数をCN、前後方向の係数をCTとして、
N=1/2*ρ*S*CN*V^2, T=1/2*ρ*S*CT*V^2と置くと、CL、CDの変換式は上式を変形して以下となります。

$$
C_N=C_L\cos(\alpha-\Delta\alpha) + C_D\sin(\alpha-\Delta\alpha) \\
C_T=-C_L\sin(\alpha-\Delta\alpha) + C_D\cos(\alpha-\Delta\alpha)
$$

クラークY 2次元翼のXFLR5による解析結果は以下のようになります。

この解析結果は数値で出力できるので、出力結果をアップしておきます。(CSVファイルです)

CLARK Y AIRFOIL_T1_Re0.122_M0.00_N9.0.csv

このCSVファイルの迎え角に誘導迎え角αiを足して配置補正Δαを引いて計算してやることでCNとCTを求めます。

誘導迎え角αiを求める

誘導迎え角の式は以下になります。1)

$$ \alpha_i=\frac{C_L}{\pi A}(1+\tau) \\
\tau=\sum_{m=2}^{\infty}\frac{a_{2m-1}}{a_1}≒\frac{a_3+a_5+a_7}{a_1}
$$

ここで出てくるa1~a7は誘導抗力計算シートで求めたa1~a7です。
誘導抗力計算シート

アスペクト比を検討中の機体に合わせて6.536、翼型の揚力傾斜をクラークYに合わせて6.2527としてやると、a1~a7は以下となります。

a1=0.22430
a3=0.02839
a5=0.00581
a7=0.00104

よってτ=0.1571となります。

構造軸方向係数へ変換

実際に空気力を構造軸方向の係数へ変換します。グラフ化する際には、X軸は元の迎え角のままにしておきます。誘導迎え角を加えた絶対迎え角にしてしまうと揚力からグラフを読んで変換することができなくなります。

以下が変換したグラフと元のエクセルファイルです。
CTは失速角度付近で最大値となり翼を前方向に曲げる入力になります。

alpha-CNCT_graph.xlsx

各飛行状態の荷重

各飛行状態の荷重を計算してまとめます。

検討前提の定数

以下のようになります。
主翼面積S = 0.153m^2
翼幅b = 1.0m
空気密度ρ = 1.225 kg/m^3
機体全備重量W = 0.3kg

A点(V=VA)での軸方向荷重

A点の飛行速度: 14.3m/s、荷重倍率: 9.0倍、揚力係数: 1.37、迎え角α0=12.5°
この時のCNとCTはCN=1.34 、CT=0.29となるので、

$$ N=\frac{1}{2}\rho C_N S V^2 \\
T=\frac{1}{2}\rho C_T S V^2 $$

計算するとN=26.04N, T=5.64N
翼幅方向の単位長さ当たり分布荷重に分解すると、翼幅の1.0mで割って、wN=26.04N/m, wT=5.64N/m

D点、D0点での軸方向荷重を求めてまとめ

同様にD点、D0点での荷重を求めて、まとめると以下となります。

A点 D点 D0点
速度V[m/s] 14.4 26.9 26.9
荷重倍率n 9 9 0
揚力係数CL 1.36 0.39 0.00
迎え角α0[deg] 12.5 -0.25 -2.75
CN 1.34 0.39 0.0
CT 0.29 0.025 0.02
N[N] 26.04 26.45 0.00
T[N] 5.64 1.70 1.36
wN[N/m] 26.04 26.45 0.00
wT[N/m] 5.64 1.70 1.36

BMD, SFD

分布荷重が求まったので、片翼を片持ち梁として各位置Xでのせん断力Qと曲げモーメントMを求めてS.F.D.とB.M.D.にまとめます。
断面や翼の平面形にテーパーを付けている場合は、各断面での値を求めて積分しないといけないですが、今回は一定断面で平面形もテーパー無しなので単純な片持ち梁として計算できます。

分布荷重qを受ける片持ち梁の自由端からの距離をxとすると、各断面でのせん断力、曲げモーメントは以下となります。

$$ Q=qx \\
M=qx*\frac{x}{2} = \frac{1}{2}qx^2 $$

これに上記で求めた分布荷重を代入すると、SFD、BMDは以下のようになります。

求めたエクセルファイルも添付しておきます。
wing-load.xlsx

以上で荷重の確認ができたので、続いてフランジサイズを検討します。

フランジサイズの検討

一本のはりを通した場合

ひとまず、高さH、幅bの断面を持つ一定断面のはりを通すと仮定して必要な寸法を求めます。

①Nによる曲げ応力

$$ 断面係数Z=\frac{bH^2}{6} $$

Hは翼型の最大高さが17.9mmなので、上下のボックスの板厚を1mmとすると15.9mmが最大。最大位置に置けるとは限らないのでキリの良い15mmとする。

荷重検討で翼根が最大荷重となり曲げモーメントMの最大は3.31Nm。応力σN

$$ \sigma_N=\frac{M}{Z}=\frac{3.31}{\frac{b*0.015^2}{6}} = \frac{88267}{b}$$

②Tによる曲げ応力

$$ 断面係数Z=\frac{b^2 H}{6} $$

Hは①同様に15mmとする。最大曲げモーメントは0.70なので、応力σT

$$ \sigma_T=\frac{M}{Z}=\frac{0.07}{\frac{b^2*0.015}{6}} = \frac{280}{b^2}$$

最大許容応力によりbを決定する

桁の材質はヒノキとします。
バルサよりは重いですがより強度があってよく模型の構造材として使われているみたいです。
近所のホームセンターでも角材が売ってて入手性もよいです。

ヒノキの抗張力は70MPa 4)
安全率を2とすると、最大許容応力は70/2=35MPa

NとTの両方の最大入力が入ったときに部材の応力が最大許容応力を超えなければよいので、
$$ \sigma_N+\sigma_T<35MPa \\
\frac{88267}{b}+\frac{280}{b^2}<35*10^6 \\
35*10^6b^2-88267b-280>0\\
b>0よりb>0.00436 $$

なので、単位をmmに直すとbは4.36mm以上必要。

はりを上下フランジに分割した場合

ここで、1本のはりを通していたのを上下2本のフランジに分割することを考える。
上下に曲げたときと、前後に曲げたときのそれぞれの断面2次モーメントが1本のはりで通していた時よりも大きくなるようにフランジサイズを決めてあげます。

分割したフランジのサイズを以下のように置きます。フランジ幅をb1、厚さをt、フランジ間距離をhとします。t=(H-h)/2

縦の断面2次モーメントは
$$ \frac{1}{12}b_1(H^3-h^3) $$
横の断面2次モーメントは
$$ \frac{1}{12}b_1^3(H-h) $$

H=15mm, b=4.36mmの元の断面2次モーメントは
縦の断面2次モーメント
$$ \frac{1}{12}b H^3 = 1.22625 E-09 $$
前後の断面2次モーメント
$$ \frac{1}{12}b^3 H = 1.03502 E-10 $$

まず、hをある数字に置いたときに前後の断面2次モーメントが元と等価になるようにb1を決めます。
で、そのhとb1を使って縦の断面2次モーメントを求めたとき、元よりも大きくなれば案になりえます。

前後断面2次モーメントが等価から、b1は
$$ \frac{1}{12}b_1^3*(H-h)=\frac{1}{12}b^3 H \\
b_1=\sqrt[3]{\frac{b^3H}{H-h}} $$

上式からhを色々変化させたときのb1と、そのh, b1から求めた縦の断面2次モーメントINを以下表にまとめました。

フランジ間距離h フランジ幅b1 縦の断面2次 IN 元のINに対する% フランジ厚t
11 6.77 1.1538 E-09 94% 2
9 5.92 1.30479 E-09 106% 3
7 5.38 1.35842 E-09 111% 4
5 4.99 1.35172 E-09 110% 5

hを大きくとってフランジを薄くしたほうが質量効率が良いので、元の断面2次モーメントを割らない範囲でhを大きくとり9mmとします。

この時の最小フランジ幅は5.92なので6mmとします。

フランジの前後分割

前後の分割についてはボックスの前後サイズを決めないと決まらないですが、フランジがちょうど3x6mmとなったので断面2次モーメントが低下しないように3×3のフランジを四隅に配置してやることにします。

もっと軽量化できると思いますが、あまり細いフランジも扱いにくいのでここでやめておきます。

※バッテリー質量の見直しに伴って主翼軽量化を図ります。
当初フランジを前後分割して4本フランジをウェブで囲む構造を想定していましたが、上下のウェブを廃止して上下3×6の2本フランジ構造を採用したいと思います。
ねじり剛性は低下しますが、許容範囲になります(のはずです)。
次の記事で詳細は書こうと思います。(2017.8.16追記)

次はねじり強度と剛性からボックスサイズを決めて主桁の寸法を決定します。

出典

  1. 牧野光雄(1989). 航空力学の基礎 産業図書 (Amazon) (楽天)
  2. 新沢順悦 藤原源吉 川島孝幸(1989). 航空機の構造力学 産業図書 (Amazon) (楽天)
  3. (有)オリンポス(2008).  グライダーの製作(I) 木製ボックス桁 (有)オリンポス (購入先)
  4. 和栗雄太郎(2005). 模型飛行機の科学 養賢堂 (Amazon) (楽天)