ラジコン飛行機 練習機の設計 その2 -諸元検討-


ラジコン練習機を設計する企画その2です。前回は大雑把な企画を考えて作る機体をスピリットオブセントルイスに決めました。今回からさっそく概念設計に入ります。
とにかく冬休みの間になるべく進めておきたい。
そういえば「翼よあれがパリの灯だ」を読んだのはいつの頃だったろうか?

概念設計(コンセプト)

概念設計では詳細な設計を詰めていく前に、諸元や質量、性能目標などの大枠を決めて詳細検討ができるようにしていきます。構造についてもある程度は考え方を決めようと思います。企画がかなりいい加減なので足りないところもここで補おうと思います。

実際の飛行機がどうやっているかは知りません。もっと要求仕様が細かいだろうし決めないといけないことが多いでしょうが、だいたい同じようなことをやっているのではないかと思います。

諸元の仮決め

今回はスケール機にしたので諸元の仮決めはあまり頭を使いません。
企画の時点で収納性と運搬性を考慮して翼幅を1m程度としたので、あとは実機の情報を調査して寸法を求めていきます。

で、その結果が以下。

実機 モデル
全幅 14.02m 1000mm
全長 8.43m 602mm
全高 3.00m 214mm
コード長 2.11m 151mm
翼面積 29.64dm2 15.12dm2
翼型 Clark Y Clark Y

上表のコード長以外は以下より。コード長は計算値。
The Spirit of St. Louis  (charleslindbergh.comより)

あ、すごい!
上記のページから飛んだ先(実機レプリカを作るプロジェクトのページ)にオリジナル実機の図面が!NOW SAVING…(*´Д`)ハァハァ
SPIRIT OF ST. LOUIS 2 BLUEPRINTS

閑話休題。
この機体は翼の平面形(上から見た形状)がほぼ長方形なので解析が簡単です。(今後、作成することを考えてもきっと楽でしょう)
実際、コード長(翼の前後長)は翼面積÷全幅で計算できます。翼端の形状が~とか、キャンバーが~とか、こまかいことは気にしません。

翼型は模型飛行機でもよく使われるクラークYです。失速特性も穏やかなので入門機や練習機に向いています。スケール感も損なわないで済むのでモデルでもそのまま採用することにします。

まだ調べてないので詳細は分からないですが、尾翼面積は機体に対して小さそうに見えます。実機も安定性が悪かったようなので、尾翼は少し大きくすることを考えないといけないかもしれません。

翼面荷重の仮決め

企画でも決めたように、今回の練習機は翼面荷重下げることで低速化を狙います。

ちなみに翼面荷重は翼の単位面積当たりにかかる荷重のことで、飛行機の重要な性能のひとつです。模型の場合よく使われる単位はg/dm^2(グラム パー デシメートル2乗)。1デシメートルは1mの10分の1なので10cm。なので、翼の縦横10cm四方の正方形にかかる重さが何グラムかという指標です。

翼面荷重が軽いとなんで低速飛行ができるのか?というと、翼の揚力(機体を持ち上げる力)が少なくて済むという単純な理由です。
揚力Lは以下の式で表せます。

$$ L=\frac{1}{2}\rho C_L V^2 S $$

ρ: 空気密度
CL: 揚力係数(翼型などで決まる)
V: 対気速度
S: 翼面積

で、このLが荷重W(水平飛行してる場合は機体の重さ)と釣り合えば飛んでいられるので、
$$ \frac{1}{2}\rho C_L V^2 S=W $$
変形して、$$ V^2=\frac{2}{\rho C_L}\frac{W}{S} $$
上式のW/Sが翼面荷重なので、速度の2乗が翼面荷重に比例していることが分かります。

ということで、たとえば翼面荷重を半分にできれば、速度は√2分の1倍(約70%)にすることができます。

じゃあ具体的に翼面荷重をいくつにしましょうか?
といっても知見が無いのでベンチマークします。

参考にした機体は低速飛行で定評のあるムサシノ模型さんのモスキートモス号です。以下がモスキートモス号の翼面荷重と最低飛行速度です(情報元はWikipediaの記事です)。

機体重量 560g 710g 860g
翼面荷重[g/dm^2] 16.67 21.13 25.60
最低飛行速度[km/h] 14.2 15.4 17.2

翼面積: 33.6dm^2
翼型: クラークY類似、後縁フラップ付

後縁フラップ付なので単純に比較はできませんが、16~20g/dm^2ぐらいを仮目標にすることにしましょう。

質量目標の仮決め

翼面荷重の目標を仮決めしたので、それに合わせた質量目標を計算します。

翼面荷重の式はW/Sでした。なので翼面荷重に翼面積を掛けてあげれば質量が出ます。
翼面積は諸元を仮決めしたときに決めた15.12dm^2です。

  • 翼面荷重16g/dm^2の時: 質量目標 241.9g
  • 翼面荷重20g/dm^2の時: 質量目標 302.4g

ということで、質量は240~300gを仮目標とします。
これは全備質量なのでバッテリーも含みます。
また、今後の検討は質量300gを基準にし、それよりも軽く作ることを目指します。

翼面荷重と質量の検証

ここで一度決めた仮目標の検証をしておきましょう。

使うソフトはXFLR5という翼型解析ソフトで人力飛行機や模型飛行機など低レイノルズ数の解析ができるフリーソフトです。機体全体の解析や新しい翼形の設計もできます。

参考URL

翼型データの入手

XFLR5のインストールが終わっているとして書きます。

UIUC翼型データベースからClark Yの翼型データをダウンロードしてきます。Cの項目に飛んで、Clarky.datというファイルを保存します。

XFLR5で読み込めるファイルのフォーマットは、以下のようになっています。
1行目: タイトル
2行目以降: X値[スペース]Y値

2行目以降の2次元平面上の点を繋ぐと翼型の図になります。というか絵を見たほうが早いので、実際読み込んだ図が以下です。青緑のほうのラインがクラークYの翼形です。

この図の横軸がX、縦軸がYで、翼型前縁がX=0、後縁がX=1となっています。
で、2行目以降のデータの並びですが、通常は後縁からスタートして翼上面線を通り、前縁で折り返して翼の下面線を通ってまた後縁に戻って終わるという流れで記載されています。

ところが今回ダウンロードしたクラークYは前縁からスタートして上面線を通って後縁まで行き、再度前縁からスタートして下面線を通って後縁まで行くという並びになっている為、そのまま解析ができません。エクセルなどを使用してデータの並びを通常の並びに直してから使用してください。

あと、2行目に余計な数字が入っているのでこれも削除かコメントアウトする必要があります。(行頭に#をつければコメントアウトできます)

翼形の解析

詳しい解説は参考URLの「ina111’s blog フリーの翼型解析ソフトXFLR5の使い方」に譲るとして、作業の流れを書いてみます。

まずは修正した翼型データをXFLR5で読み込みます。
File→Openで修正したclarky.datを選択。

File→Direct Foil Designを選ぶと上の画像の状態で翼型を表示できます。

File→XFoil Direct Analysisで解析モードに入ります。

Analysis→Define An Analysisで解析条件を定義します。
ここではレイノルズ数をReynoldsへ、Machにマッハ数を入れます。他はいじってません。NCritは乱流と層流の境界条件らしいので、模型の場合はいじったほうが良いかも。

ではレイノルズ数を求めましょう。

レイノルズ数は以下の式で定義される。
$$ Re=\frac{UL}{\nu} $$
U:代表速度(機速)
L:代表長さ(翼弦長)
ν:空気の動粘性係数(常温空気で0.14~0.17 * 10^-4[m^2/s])

代表速度の機速はだいたい人がジョギングする速度ぐらいで飛んでくれると嬉しいので、Uはその値にします。ジョギングの速度は1kmを7分で走る程度なので、秒速に直して約2.4m/s。
代表長さの翼弦長は諸元で定義した151mmをメートル換算して0.151m。
空気の動粘性係数は0.15*10^-4[m^2/s]とします。

上記の条件で計算するとReは24160。なのできりが良い24000とします。

マッハ数は音速が340m/sなので、2.4÷340=0.007
入力しても0のままでも構いません。
Re数とマッハ数を入れたらOKを押します。

続いて別ウィンドウで出ている解析の設定を行います。
私の解析設定は以下のようにしてます。αは迎え角なので、迎え角を-10度~30度まで0.5度ずつ変化させる設定です。Analyzeボタンを押すと解析を実行してグラフを書いてくれます。

このレイノルズ数だと空気の粘性が上がるのか失速せずに迎え角30度まで行ってしまい最大揚力係数を求めにくいです(下図の濃い紫のグラフ)。
グラフは横軸が迎え角、縦軸が揚力係数です。

初期CLグラフ

別に計算したRe=100,000のグラフ(上図の薄い紫のグラフ)では失速点(揚力係数が最大となっているとこ)が約12°なので、この角度の揚力係数を読むと約0.7となっています。
この値で揚力を計算してみます。

揚力は以下の式でしたね。

$$ L=\frac{1}{2}\rho C_L V^2 S $$

各値は以下。
ρ:空気密度 1.293kg/m^3 (0℃、1気圧)
CL:揚力係数。さっき求めた0.7
V:対気速度。先ほど求めたジョギング速度 2.5m/s (時速だと9km/h)
S:主翼面積。15.12dm^2 → 0.1512m^2。

上記の値から計算すると揚力は
L=0.5*1.293*0.7*2.5^2*0.1512=0.428 [N]

機体質量を300gとすると、重力と釣り合うのに必要なLは
0.3[kg]*9.8[m/s^2] = 2.94 [N]

ということで、全然足りません。だいたい6.8倍の揚力が必要。揚力Lは速度の2乗に比例するので速度としては2.6倍程度にすればよいので、2.5*2.6=6.5m/s = 23.4km/h程度。
速度が上がるとRe数も上がってCLはさらに大きくなるので実際はもう少し少なくても大丈夫なはず。なので20km/h (5.56m/s)ぐらい?

ということでもう一度この条件で解析を回します。
Re数を計算しなおすとRe=55970。キリがよい56000とします。

で、解析を回しなおした結果が以下。(白いグラフ)
CLグラフ

グラフを読むと最大揚力係数は1.36程度。
揚力を再計算すると、

L=1/2*1.293*1.36*5.56^2*0.1512=4.1 [N]

重力と釣り合うのに必要な揚力は2.94 [N]だったので、25%ほど余裕があります。

再解析はしませんが、速度は4.8m/s(=17.28km/h)程度でも大丈夫そうです。
これはモスキートモス号の機体重量860gの時と同じぐらいの最低速度なのでこれで良しとします。

翼面荷重と質量の仮目標について妥当性を最低飛行速度から検証しました。
今回はベンチマークの低速機と同程度の最低飛行速度を実現できそうなので、このまま目標として採用します。ついでに最低飛行速度も17.3km/hを目標とします。

まとめ

今回、諸元値と目標を以下のように決めました。

諸元・目標 単位
全幅 1000 mm
全長 602 mm
全高 214 mm
コード長 151 mm
翼面積 15.12 dm^2
翼型 Clark Y
全備重量 300 g 以下
翼面荷重 20 g/dm^2 以下
最低飛行速度 17.3 ㎞/h 以下

結構長くなってしまった。もう少し小分けにしたほうがいいだろうか?

次回は尾翼面積を検証しようと思います。